個人・小規模事業のブランディングでいちばん大切なこと

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ブランドブーム再燃!?

「ナナトピ7KG」をご覧の皆さま、こんにちは。Light Works Agency(LWA)の大石雅彦です。LWAでは主に文章制作やブランディングの支援サービスを行っております。

今回はこちら「ナナトピ7KG」さんに「個人や小規模事業所がやるべきブランディングの手法」についての記事を、寄稿させていただきます。

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著者:大石雅彦さま

ブログ:Light Works Agency(LWA)

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近頃「ブランディング」という言葉をブログの記事やYouTube等でよく目にしませんか?

ブランディングは、数ある選択肢の中から自社(あるいは自分)の提供する商品・サービスを選んでもらうために、ブランド形成が重要だ、という考え方に基づく戦略理論です。いま書店のビジネス書コーナーに行くと、ブランディングやブランド戦略に関する書籍が何冊も並んでいます。

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書店に並ぶブランディング本



実は日本でブランディングが流行るのは今回が初めてではありません。1990年代初頭、アメリカで「情報スーパーハイウェイ構想」が唱えられマルチメディアブームが起こった頃、デヴィッド・アーカーの「ブランドエクイティ戦略」という本が和訳されました。それまでもブランドという概念はありましたが、ここから日本のビジネス界は一躍ブランドという熱に浮かされ始めます。

スターバックスの日本上陸一号店が銀座松屋裏に登場、NIKEのエアマックスやアップルのiMac、ユニクロのフリースが人気を博すなど、象徴的な商品やサービスがこの頃多数現れました。

逆に、97年には山一證券が破綻、2000年には雪印乳業の食中毒事件、翌2001年には雪印食品の食肉偽装事件が起こる等、築き上げたブランドが失墜するケースも発生します。

日テレは「日テレブランド」というキーワードを局のスローガンとして採用、フジテレビはその名も「ブランド」というドラマを放送しました。広告業界も当時こぞって「ブランド戦略」をビジネスの材料にしたものです。

 

しかし、ブームは過熱した後に必ず冷めます。「ブランディング」に対する世間の関心は、リーマンショックや続く自然災害などの影響もあってか、いつしか沈静化していきました。

 

それが、ここにきて再び活性化しているのです。

SNSなどセルフメディアの発達により、小規模な事業所や個人でも細やかな情報発信ができるようになったこと。そして2020年に始まった一連のコロナ騒動によりリアルshopが低迷し、在宅が長期化することで売り手側・買い手側の双方がこれまで以上にネットを活用しだしたこと、等がその要因と言えるかもしれません。

 

けれども、ブランド論やブランディングの考え方そのものは、20年前とそれほど大きく変化していません。たとえば、ブランドを解説する書籍やサイトでは

 

・「ブランドとは何か」と問われて正確に答えられる人は案外少ない

・有名ブランド、高級ブランド、大企業だけがブランドではない

・ブランディングは広告やイメージ戦略、ビジュアル戦略のことではなく、経営戦略である

・焼き印(burned)を押して他と区別する目印にしたことが、ブランドの語源

・マーケティングの4Cや4P、SWOT分析などのフレームワークを用いて、ブランドのコンセプトを見極めなければならない

 

などといった説明がよくなされます。これらはどれも、既に20年前から言われ続けているものです。逆に言えば、ブランドづくりの基本は今も昔も変わらないのです。

 

ブランドづくりは氷山のようなもの

極地の海に浮かぶ氷山は、海上に出ている部分は全体の1/7ほどで、残りのほとんどは海の中に沈んで見えないそうです。例えるなら、ブランドづくりとはこの氷山に似ている、と言えるかもしれません。ブランドのロゴや名前、広告表現やイメージ戦略など目に見えやすい部分が、海上に現れた氷山に相当します。

しかし重要なのは波の下に隠れた残りの部分なのです。そこがしっかり作りこまれていないと、見てくれだけの部分はすぐにひっくり返ったり、水中に没してしまいます。

 

では、その海中氷山に相当するものは何でしょうか。

 

それは、やっぱりブランドの理念やコンセプトなんです。自分たちの商品やサービスはどのような意義を持ち、どのような価値を、どのようにして社会に提供していくのか。この部分をしっかり意識して、社会との接点を磨き上げていく。

そうはいっても、組織が大きくなると理念やコンセプトを分析・抽出して顕在化させたり、共有したりするのはなかなか時間と手間のかかるプロセスです。巨大な氷山は、一夜にしてできるわけではありません(このプロセスを、インナーブランディング、と呼んだりします)。

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ブランディングは氷山だ



それに対し数名程度の小規模事業の場合は、意識の共有化がし易いという利点があります。個人ならさらに取り組みやすいでしょう。「自分はどうしてもこれをやりたい」「この分野なら誰にも負けない」という熱意と、それを実現する知識やノウハウがあれば、あとは具体的に展開する方法を整え、海上に顔を出す氷山の部分を形作れば良いのです。

 

「自分ブランド」を確立したスープ作家

一例を挙げましょう。私の知人に、おそらく日本でただ一人の「スープ作家」という肩書を持った人がいます。「料理研究家」でもなければ「フードコーディネーター」でもない。近年料理本の分野で次々とヒット作を飛ばし、テレビやラジオ、雑誌やwebなど各メディアで引っ張りだこの有賀薫さんです。

 

有賀さんは2011年から3,000日以上にわたって毎朝、家族のためにスープを作り続けています。もともとクリエイター志向の彼女はやがて自作スープの写真展や豆本の企画、古書店でのイベントなどを開催し、2016年ついに『365日のめざましスープ』を出版します。

このころ既に、彼女は自らを「スープ作家」と表現していました。おそらく彼女にとってスープづくりは、食べ物であると同時に、絵や写真と同じく自己を表現する創作物のようなものでもあったのでしょう。

スープという普遍的な料理に「作家性」を持ち込んだ彼女の著作やメディア連載は世間から高い評価を受け、版を重ねるのみならずレシピ本の分野でタイトルを受賞、注目されていきます。現在では9冊目の書籍が刊行、「日本をスープの国にする(本人談)」という野望(笑)の勢いは止まりません。

 

ブランドという観点から後付けで分析すれば、有賀さんには

・事業領域や自己規定を「スープ+作家」というオリジナリティのあるワードで表現し、常に「スープ作家・有賀薫」という組み合わせで印象付け、差別化を図った。

・SNSやnoteなどのwebと、イベント、書籍などのメディアミックスでターゲット層に訴求した。

・反響のタイミングを逃さず、マーケットを適切に捉えたうえで、活動の深度と領域を拡充していった。

などの戦略的視点があったと言えるでしょう。

 

しかし、本当はそんなことはどうでもいいことなのです

重要なのは「有賀さんが強い意志と情熱をもってスープを作り続け、広め、その素晴らしさを人々に伝えたいと考えた」というその一点です。これこそが彼女を「スープ作家・有賀薫」たらしめる、ブランドの理念なのです。

この根幹がないまま、理論や分析だけから「スープがいけるんじゃないか」と導き出した仮説を元に本を出したとしても、これほどの反響は得られなかったはずです。

 

雪印乳業の創業エピソードに、敗戦後の物資不足の中で飲んだ牛乳の味に感動し「こんなに美味しいものがこの世にあるのか。日本の多くの子供たちにこれを飲ませてあげたい」という思いから事業を立ち上げた、という話があります。そのマインドが受け継がれ、組織全体に共有されていれば前述のような事件は起こらなかったでしょう。ブランドづくりで最も大切なのは、氷山の沈んだ部分を構築するための根本を成す理念です。

 

ブランディングに一番大切な、心に響く理念を見つけよう

個人や小規模事業でこれからブランディングに取り組みたい、と考えている方は、ぜひ一度この「自分たちの根本理念はなんだろう」という点について、心から考えてみてください。仲間が複数人いる場合には、このことを心行くまで話し合ってみてください。それが見つけられたら、あとはセオリーや理論を用いて、実現していけばよいのです。